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【前編】社外メンターとの出会いで強みを知り、新規事業に参戦してビジネス戦闘力を上げる──山口義宏さんが語った「一歩踏み出す挑戦」

「自分のスキルは社外でも通用するのだろうか」──今後のキャリアに不安を感じ、社外での自分の可能性を知りたいと考えるビジネスパーソンは少なくありません。最新ビジネストレンドを掴み、本業以外でもスキルアップを目指したい人もいるでしょう。
そこで今回は、ブランドコンサルティングの第一線で活躍するインサイトフォース代表取締役 山口義宏さんに社外コミュニティや新規ビジネスに関わることで、どんなことを学んできたのかを語っていただきました。

インサイトフォース株式会社 代表取締役 山口 義宏さん

東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームとしてインサイトフォース株式会社を設立。BtoC~BtoB問わず企業/事業/商品・サービスレベルのブランド~マーケティング戦略の策定、マーケティング4P施策の実行支援、マーケティング組織開発・育成を主業務とし、これまで100社を超える戦略コンサルティングに従事。事業会社の社外取締役も担う。2019年からは、ダイヤモンド社が運営するマーケッター向けコミュニティ「マーケリアルサロン」でファシリテーターを務める。主な著書に、「マーケティングの仕事と年収のリアル」 (ダイヤモンド社)、「デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール」(翔泳社)、「プラットフォーム ブランディング (SBクリエイティブ) 」他。

自分とは違う意見を聞くことで、視界が広がり引き出しが増える

──山口さんは社外コミュニティや他社プロジェクトに参画することに対して、どのような見解をお持ちですか。
山口:私が社外の方々と触れ合う「マーケリアルサロン」でファシリテーターを務めている理由にもつながるのですが、社外の人との交流はビジネスパーソンにとって重要であり、数多く経験した方がいいと考えています。

自分が属する業界や会社とは違う視点や常識に触れることで、単純に知識やノウハウなどの引き出しが増える以上に視野が拡がるからです。マーケリアルサロンで行っている「ニュースの裏読みディスカッション」では、ニュースで報じられたテーマに対して参加者が意見のコメントを出したものをみると、多くの気づきがあります。

これがとても重要なのです。ただ単純に社外コミュニティが良いというのではなく、パブリックの場では聞けない本音で聞ける~話せるという双方向の信頼関係を築くことが必須です。

ただ、間違えていけないのは、あるレベル以上の仕事のプロ同士の信頼構築とは、頻繁に言葉を交わすことや飲みの数を増やすような単純な接触回数が鍵ではありません。プロが他人を信頼するトリガーは、自分にはない優れた見解にふれたときです。

つまり、ビジネステーマのコミュニティにおいては、自分なりの鋭い見解を出せなければ、顔見知りになったとしても深い情報を開示されるだけの信頼関係は築けないということです。

──第一線で活躍されている山口さんであっても、新たに得られることがあると?

山口:もちろんですよ。マーケリアルサロンでは毎月2名のゲストをお呼びして登壇してもらっていますが、そもそも私が話を聴いてみたい方を招いているので刺激だらけです(笑)。実際に、新しい情報や学びを得ています。ただ学びはゲストからだけではありません。サロンの参加者の中にもプロとして尊敬できる方が多くいるので、それらの方々からのフィードバックから学ぶことも多いです。

──社外コミュニティに参加することで、どのような学びや発見がありましたか。
山口:特に印象的だったのは、経営者であり、執筆もされている北野唯我さんを招いた回ですね。書籍マーケティングに関する内容だったのですが、SNSで書籍の感想を書いてくれた人全員に返信をしたと聞き、かなり驚きました。

300年以上の歴史を持ち、生活雑貨や工芸品を作られている中川政七商店の緒方恵さんを招いた回では、社内で使う用語に自社の思想を込めた独自用語を用いていて、その解像度の高さが素晴らしく、会社が社員と価値観を共有している仕掛けのお話に学びがありました。

得た知識・ノウハウすべてを取り入れる必要はない

──そうした知識やノウハウを、自分に取り入れていくと?
山口:いえ、得たものすべてを自分に適用するとは限りません。実際、私はいま紹介した2つのことを実践していませんから。

──えっ?どういうことですか。
山口:例えば、弊社インサイトフォースが、中川政七商店さんのように多くの店舗スタッフを抱えたビジネスや規模ではないので、同じ解像度で社内用語を定義しなくても、支障は少ないのが現状です。そのため同じことを実行するエネルギーに対してリターンは少ないと判断しています。

何が言いたいのかというと、得た知識をまず実践という身軽さも悪くはないのですが、限られた時間リソースのなかで成果を最大化するには、得た知識や方法論を適用して成果が出やすい条件をよく考えることも大切です。

私はよく「戦略や施策が機能しやすい要件」という言葉で説明するのですが、他社の成功事例がその人や会社にとって機能するかどうかは、一概には言えません。会社の規模、業態、事業の成長フェーズ、組織文化など。成果を出す要件は、目に見えないですがさまざまな要素があるからです。

若いうちは、得た知識はまず実践の行動量こそ重要ですし、その実践によって要件を体感できるようになりますが、そのまま数撃ちゃあたる方式では仕事の打率は限界がきます。

──だとすれば、得た知識はどのように扱えばいいのでしょう。

山口:大前提として、事例に多く触れ引き出しを増やすことは、もちろん大事です。その上で、得た事例や知識を書き留めてリスト化しておきます。いわゆるタグ付けですね

どのような要件が整ったときに、その事例のやり方を適用して成果が出るのか。これは実際にやっていくと、次第に共通性が見えてきます。なにかの局面で有効だと思った事例に触れた際に、機能する要件のタグを仮想的につけ、頭の中の引き出しに格納しておけばよいのです。実際、私は実務のマーケティングで同手法を実践しています。

この施策のタグ付整理格納だけでマーケティングの大きな成功をもたらすことは難しく、個別のブランドごとに異なる固有解となる魅力要素を思考しきらないと成功はしません。ただ、頭の中でタグ付きで整理されていれば「やっても成果がでない」という失敗投資の回避にはかなり効き、プロフェッショナルとして重要な成果の安定性を高めることに寄与します。

──引き出しを増やす以外にも、得られることはありますか?
山口:物事を相対的に見ることができるようになります。特に転職経験のない人は、どうしても基準が新卒から勤めている自社にあり、その自社の良さも悪さも無自覚になりがちです。

例えば、ミネラルウォーターは、ただひとつのブランドを飲んでも、その美味しさや良し悪し好みの判断はしづらいじゃないですか。でも、他のミネラルウォーターも飲んで比べれば、その比較によって感じる情報量が一気に増えて、同じ用に見える水でも味の違いを感じられます。社外の人と触れることの良さは、無自覚な暗黙知のままになりがちな、自社や自分の思い込みや、強みや弱みが相対化によって理解しやすくなることです。

企業組織の中の人の価値観や判断特性というのは、組織独自の価値観思想だけでなく、そもそも業態やビジネスモデルから多くの影響を受けて成り立っています。粗利率が高い業態ならば、細かな経費管理は気にせずに企画力や成果を高める環境に投資する社風になりますし、逆に粗利率が低ければ小額の投資や経費管理にもシビアです。同様に、市場シェアが高い企業ならば「多くの顧客に嫌われない」ことも重要なので、保守的なコミュニケーション施策判断になりますし、反対に市場シェア数%のニッチなブランドならば「9割に嫌われても、自社のコアファンに愛されれば良い」というような賛否が分かれる尖ったコミュニケーション施策を推進するのが合理的なため、リスクをとりやすい組織の価値観になります。

他社の事業やプロジェクトや人に触れると、その組織の思考特性に触れることにも繋がり、自社の良さと課題も鮮明に見えてくるはずです。そういった意味でも他社の事業や人に触れることは「気づきの宝庫」で有意義でしょう。

──山口義宏さんが語った「一歩踏み出す挑戦」【後編】に続く

■編集部より

前編では『自分が属する業界や会社とは違う視点や常識に触れること』の重要性を語ってくださった山口さん。
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